東京高等裁判所 平成9年(行コ)140号 判決 1998年3月18日
埼玉県新座市栄二丁目三番一六号
控訴人(原審原告)
伊藤謙二
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被控訴人(原審被告)
特許庁長官
荒井寿光
右指定代理人
本田敦子
同
早﨑士規夫
同
長谷川実
同
笛木秀一
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成七年六月二九日付で控訴人に対してした昭和五九年特許願第一一七三〇六号の出願無効処分を取り消す。
3 被控訴人が平成九年二月二八日付で控訴人に対してした前項記載の出願無効処分に対する異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。
4 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 事案の概要
本件事案の概要(当事者間に争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実、争点、争点に対する当事者双方の主張の要点)は、次のとおり、当審における当事者双方の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決二頁一〇行から七頁四行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の主張
本件出願並びにこれとほぼ同時期に控訴人がした特願昭五九-一四八二九四号出願及び特願昭五九-九九三六四号出願につき、特許庁審査官はいずれも拒絶査定をしたが、控訴人が拒絶査定に対する不服の審判の請求をしたところ、それぞれ、当該出願につき、原査定を取り消し、特許すべき旨の審決がなされた。
右各出願に対する拒絶査定は、些末な点を捉えてしたもの、あるいは出願に係る発明とは原理、構造、構成が全く異なる引用例に基づいてしたものであって、もともと法四九条所定の拒絶理由を備えていなかったのみならず、本願出願及び特願昭五九-九九三六四号出願に対するものは、拒絶理由の通知書に、拒絶の理由となった引用例等が示されないままなされたもので、法五〇条に違背するものであった。したがって、特許庁審査官が職権濫用行為をした事実は明らかである。
控訴人は、このような特許庁審査官の職権濫用行為によって審判請求を余儀なくされ、その手数料等多大の出捐をし、損害を被ったうえに、本件処分の原因となった特許料不納付の過誤に陥ったのであるから、本件出願に対し特許権が付与されて然るべきである。
二 被控訴人の主張
控訴人は、本件出願及びそれ以外の控訴人の出願につき特許庁審査官が拒絶査定をしたことが職権の濫用に当たり、控訴人が審判請求の手数料等の出捐をして損害を被ったうえに特許料不納付の過誤に陥ったと主張するが、かかる事情は、本件処分の違法事由とは何ら関係のないことであり、主張自体失当である。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件処分及び本件決定の各取消しを求める控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」(原判決七頁五行から一〇頁六行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八頁五行の「したがって、」から同頁一〇行の「推認される。」までを、次のとおり改める。
「 したがって、特許権の設定の登録を受ける者は、被控訴人による法一〇八条三項に基づく納付期間の延長がされない限り、特許をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があった日から三〇日以内に、定められた特許料を納付すべきところ、本件出願について特許をすべき旨の審決の謄本が平成七年二月一一日に控訴人に送達されたにもかかわらず、控訴人が右送達の日から三〇日以内に所定の特許料を納付しなかったことは、前記第二の一の2及び3(原判決三頁九行から五頁二行まで)に認定したとおりであり、また、控訴人の請求により被控訴人が法一〇八条三項に基づく納付期間の延長をした形跡も全く窺われない。そして、その後も控訴人からの特許料の納付がないまま本件処分に至ったものと推認される。」
2 原判決九頁二行の「2 原告は、」から一〇行の「失当である。」までを次のとおり改める。
「2 控訴人は、本件出願につき特許庁審査官がした拒絶査定が職権を濫用してなされたもので違法であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はないうえ、仮に同拒絶査定に違法事由が存したとしても、同拒絶査定を取り消し、特許すべき旨の審決を経た後に、特許料の不納付を原因としてなされた本件処分の適否に影響を及ぼすものということはできない。
また、控訴人は、本件出願以外の控訴人の二件の出願につきそれぞれ特許庁審査官がした拒絶査定がやはり職権の濫用に当たり、控訴人が審判請求の手数料等の出捐をして損害を被ったと主張するが、右各拒絶査定が違法であると認めるに足りる証拠はないうえ、かかる事由が本件出願に関する本件処分の違法事由となり得ないことは右と同様である。
控訴人は、さらに、審決の事務手続が初めてであったとか、勤務先であるサイエンス株式会社から攻撃を受けて特許管理を十分に行えない状況にあったなどと主張するが、控訴人にとって審決によって特許すべきものとされたことが初めてであったとしても、そのことが特許料の不納付を原因としてなされた本件処分の適否に影響を及ぼすものでないことは明らかであり、また、控訴人が他から様々な攻撃を受けているとの主観的な認識を抱いていたことは格別、かかる事実が、控訴人に対し、特許をすべき旨の審決の謄本が送達され、本件処分がなされた当時、客観的に存在していたものと認めるに足りる証拠はないから、右各主張も失当というほかはない。」
二 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)